トラッキィギャンビィ

投機した時間の軌跡

【読書メモ】ゼロ時間へ

ミステリー小説というのをはじめて読みました。
登場人物が多くて、めんどくさいと言う勝手な思い込みがありましたが、すぐに読めてしまいました。

目次

作品詳細

作品名:ゼロ時間へ
作者:アガサ・クリスティー
訳:田村隆一
出版社:ハヤカワ・ミステリ文庫
発売日:1976年7月31日

あらすじ

私はね、よく出来ている探偵小説がすきなのだ。だがね、どれも出だしがいけない!みんな殺人ではじまっておるのだ。しかし殺人と言うものは終局なのだよ。物語は、ずっとまえからはじまっているのだ。ときによっては、何年もまえからね。ある人々を、ある日、ある時、ある場所へとみちびいてくる、その要因と出来事とで、物語ははじまっているのだ。

冒頭のトリーヴスのこのセリフから、この物語は始まる。

他にも、バトル警視の娘が、学校で心理学という名の下に校長から泥棒の犯人だと決め付けられ、極度の萎縮状態から逃れるためだけに嘘の供述をしている、なんとも謎な描写から本は始まっていく。

スポーツマンのネヴィルとその妻、そして元妻は富豪の親戚トレシリアン夫人邸に滞在することに、親戚・知人・召使達が集まる中で、最初の事件が起こる。

ガルズポイントを訪れた弁護士のトリーブスは、皆に気味の悪い話をした。昔、弓矢で遊んでいて仲間を射殺してしまった少年がいた。わざとではなく手元が狂ったのだが、その少年は悲嘆にくれた。
周囲が心配をして少年を庇い、事故ということで結着が着いたのだが、ある農夫がその少年が森の中で密かに弓矢の練習をしているのを見たという。
トリーヴスは大人になったその少年を、今でも見ればわかるといい、身体的な特徴も覚えているとも付け加えた。

トリーヴスが深夜になって近くのホテルに帰ると、エレヴェーターに故障中の札が下がっていた。
心臓の弱いトリーヴスは仕方なく部屋のある3階まで階段を上がることになった。ホテルまで送ったロイドがその姿を見たが、それがトレーヴが生きているのを目撃された最後で、翌朝トレーヴはホテルの部屋の中で死んでいるのが発見された。
心臓麻痺であった。トレーヴの心臓では階段を3階まで上がること自体が自殺行為だったのだ。しかし、ホテルではエレヴェーターは故障などしていないという。
誰かが故障中の札をエレヴェーターに下げたらしい。イタズラか、それとも心臓のことを知っている誰かが故意にやったのか。

次に、カミラ・トレシリアンが部殺害される。凶器と思われるゴルフクラブが落ちていて、そのクラブはネヴィルのものと確認され、クラブにはネヴィルの指紋しかついていない。
さらに、ネヴィルの背広に血痕がついているのが見つかり、召使の証言からカミラとネヴィルが激しく言い争っていたことも判明する。
しかし、捜査にあたったバトル警視はネヴィルが犯人とは思えなかった。あまりにも辻褄が合いすぎる。ネヴィルは濡れ衣を着せられている可能性が高いが、こうまで証拠がそろってはネヴィルを野放しには出来ない。
そこで、ネヴィルを尋問し、犯人にはネヴィルを疑っているように見せることにした。その後ネヴィルにはアリバイが成立することが判明し、容疑者からは除かれることに。
では、誰がカミラを殺し、ネヴィルに罪を被せようとしたのだろうか。また、トリーヴスの死は病死なのか。バトル警視の捜査が本格的に開始されたが、事件は意外なところから解決に向かい始める。

感想(ネタバレ)

物語は、犯人による綿密な計画によって2重3重に読者を惑わしてくる。

↓ネタバレなので、反転してください。

最初から、事件は綿密に計画されていたもので、作中の最後まで元妻オードリイの心情描写は出てこない。ネヴィルの異常性に萎縮しているからである。
そのために、離婚した理由も全く別の理由であり、ネヴィルは、愛想をつかされたオードリイに対して復讐しようとしている。

ゼロの時間、すなわちオードリイへの復讐を完成させるために、無駄な情報を提供してきたトリーヴスは殺害され、カミラも殺されてしまう。全ての事件は、オードリイを犯人へと仕立て上げ絞首刑へと追いやるための過程でしかなかった。

作品の最初の描写から、意味のなさそうなバトル警視の娘の話まで、全ての話が何を言いたかったのかが、ゼロ時間への章で繋がり鳥肌ものでした。

ミステリー小説だからと好き嫌いせずに読んどけばよかったと後悔しています。これからは、ミステリーも読書のジャンルに入ってくるだろう素晴らしい作品でした。