トラッキィギャンビィ

投機した時間の軌跡

【読書メモ】グラスホッパー

目次

作品詳細

作品名:グラスホッパー
作者:伊坂幸太郎
出版社:角川文庫
発売日:2007年6月25日

グラスホッパー (角川文庫)

グラスホッパー (角川文庫)

 

あらすじ

主な登場人物は三人
  • 鈴木、27歳の元中学校教師で、妻をひき逃げ事故で亡くしている。犯人は、裏稼業を営む父親の庇護の下、罪に問われることもなかったため、復習のためにその悪事を働く会社「令嬢」へと潜入し、押し屋騒動へと巻き込まれる。
  • 蝉、ナイフを巧みに扱う家族殺人が得意な殺し屋。仲介業者の岩西から自由になるために、名声を手に入れようと、押し屋騒動へ首をつっこむ。
  • 鯨、自殺専門の殺し屋。自殺させた人たちの幻覚が見えるようになり、その清算をするために、押し屋騒動へ関わっていく。
ストーリー

鈴木は「黄」と「黒」と呼ばれていた若者を引っ掛け、いつも通り「令嬢」の仕事をしていた。しかし試用期間を抜け出すため、いつもと違う試練を与えられ、殺人を強要される。それを見に来ようとした、妻のひき逃げ犯本人が、何者かに横断歩道で押され、殺されてしまう。それを鈴木が追うところから、物語が始まる。

押し屋を追って、家まで特定し確認するため近くも、普通の家庭で普通の親をしていることが判明する。そのことが気にかかり「令嬢」から何度も確認の電話が来るも、報告を拒否し続け、最終的に罠でおびき寄せられ、拉致監禁され拷問の一歩手前まで行ってしまうも、押し屋の情報が知りたい蝉に助けられる。

蝉と鯨は、お互い全く違う殺しの仕事をしていたが、鯨の依頼人が鯨が口を割ることを恐れ、蝉に鯨の殺害を依頼するところから、関係が生まれる。それまでにも二人は押し屋騒動に少しずつ触れていたため、鈴木の拷問現場で出会うことになる。

鈴木が蝉に救出されたところに、鯨が待っていた。2人の戦闘が始まり、鯨は蝉を殺害する。だが、鯨が鈴木のもとへ向かうと、鈴木は姿を消していた。押し屋が鈴木をクルマに乗せ、助け出していた。

そして押し屋は、自分たちが「劇団」という「令嬢」の敵対組織の人間であると明かす。鈴木が見た家族も本当の家族ではなく、そのように演じている裏稼業の人間たちだった。「劇団」はひき逃げ犯とその親の「令嬢」の頭を始末しようとしていた。

鈴木が冒頭で引っ掛けた2人は、実は「劇団」の人間で、スズメバチと呼ばれ、彼らは「令嬢」の社長を毒殺した。比与子は「押し屋」により電車で轢死させられる。さらに、鯨は、幻覚に誘われるように、車に轢かれて死亡する。

鈴木と押し屋と「劇団」以外の登場人物が死に、鈴木は再出発することとなった。電車のホームで待つ鈴木の反対側のホームで、「劇団」の子供たち役としていた子いた。手を振ろうとしたところで、電車が通り、彼らの姿は見えなくなってしまう。

感想 

三人の登場人物が重なり合って、一点に向かって事件が収束する感じがとても気持ちのいい最貧でした。

作中に割と違和感バリバリで鯨に対してホームレスの田中がいうこのセリフ

「兆候はあるんですよ、幻覚のしるしは。例えば、街で立っている時に、目の前の信号の点滅がちっとも止まらなかったり、歩いても歩いても階段が終わらなかったり。駅にいる時も、通過する列車がいつまで経っても通り過ぎない、とか、この列車ずいぶん長いなあ、なんて思ったら、まずい兆候ですよ。そういうのは全部、幻覚の証拠です。信号や列車は、幻覚のきっかけになりやすいんです。信号はたいがい見始めの契機で、列車は目覚めの合図だったりします」

これが、最後の電車が長いという描写に繋がっているようで不気味でした。

列車が通り抜けていくのを、鈴木はじっと眺めながら、「それにしてもこの列車、長くないか」と、亡き妻に向かってこっそりと言う。
回送電車は、まだ通過している。

他にも、鯨が岩西を飛ばせ、蝉は岩西という受け皿がいなくなったことを伝えられると

「おまえは、岩西がいなくなって、蓋が外れたんじゃないか?」その声はさらにつづく。「今までおまえが、罪悪感を覚えずに人殺しができていたのは、岩西がいたらじゃねえか?岩西が死んだ今、おまえは氾濫する憂鬱で、窒息するしかないんだろ?」

という会話の後に、蝉は鯨に殺されてしまう。
これは、心の支えになっていたものを取られてしまったことで、鈴木も復讐が心の支えになっていたように見える。
そのため、蝉のような空虚感、氾濫する憂鬱で窒息を免れなくなり、田中の言った鯨のように幻覚が見え始めているのではないかと思えました。結局似た者3人だったのかもしれませんね。

グラスホッパーは、漫画の「魔王」を読んでいたのでイメージがつきやすかったです。しかし「魔王」とはストーリーも違い、楽しむことができました、次は映画も見ていきたいですね。