トラッキィギャンビィ

投機した時間の軌跡

【読書メモ】マネー・ボール

目次

作品詳細

作品名:マネー・ボール
作者:マイケル・ルイス
訳:中山宥
出版社:武田ランダムハウスジャパン
発売日:2006年3月1日
原作発売年:2003年

マネー・ボール (RHブックス・プラス)

マネー・ボール (RHブックス・プラス)

 

要約

最も大事な指標

野球で一番大事な指標は出塁率である。
出塁率とは、アウトにならない確率という重要な指標である。
つまり、四球を選ぶ、選球眼も野球にとってはものすごく重要な能力であると言える。

セイバーメトリックス

統計・データ解析は70年代80年代から始められ、データを分析するための企業ができ、ビル・ジェイムズの「野球抄」が自費出版され、ベストセラーとなっても球団関係者はデータの活用というものに、興味を示すどころか拒絶していた。

得点数=(安打数+四球数)x塁打数÷(打数+四球数)

このような、わりと有効であった数学的仮説を出したのも「野球抄」の功績

現在では、攻撃力の指標となっているOPSなどを開発したのもこのころの研究者たち。

ビリービーン

メジャーのスカウトから右に出る者がいないほどの才能と太鼓判を押されメッツに入団するも、短気な性格、精神面の弱さで振るわない成績に終わる。
しかし、球団スタッフへと転向し、もともとの明晰な頭脳、行動力と合わさり頭角をあわらす。ビル・ジェームズの野球抄の全12冊を読み、より客観的な分析を野球に当てはめようとし、GMになり今日の名声を手に入れる。

得点期待値

ものすごい細かな精度で野球の分析に乗り出したAVM社の創業者は、当時流行したデリバティブの分析家が、単純なデータで間違った分析をしている業界で分析をしたくて、野球に目をつけたため参入してきた。

この分析から、全てのプレーは過去のデータの集積から得点期待値に換算できるように

AVMシステムはきわめて精度が高く、空想の打球おシュミレーションすることができる。どんな打球も、過去に数多く同じ例があるから、その平均を出せば、”最もありふれた二塁打”という空想上の観念をかたちにできるのだ。仮に、軌道Xで速力Yのライナーが地点968に落下したとしよう。過去10年のデータと照合すると、ほぼ同じ打球が8642例ある。うち92パーセントが二塁打、4パーセントが単打、4パーセントが捕球されてアウトだった。打つ前は得点期待値0.50の場面だったと仮定する。実際はまだ何も起きていないうちから、打者には得点の可能性が0.50、投手には失点の可能性が0.50あったわけだ。ここで先ほどの打球が飛んで、ジョニー・デイモンがお得意のジャンピングキャッチでみごとに捕球したとする。デイモンは0.50を0に抑え込んで、チームに貢献したことになる。

ポストシーズンの罠

シーズン中は、十分に多いゲームをこなすためにOPSの重視、送りバントの否定、盗塁の否定など得点期待値を高める戦略で、ポストシーズンに出場するための得点と失点を算出し、出場にこぎつけることができる。

しかし、ポストシーズンはゲーム数が少ないため、運が多くの比率を占める戦いになってしまうため、理論や論理が全く通用しないことがまかり通ってしまう。

感想

マイケル・ルイスさんの本は、最近発売された「かくて行動経済学は生まれり」を読んでからのこの作品ですが、歴史と簡単な理論のさわりが知れていいと思います。

これまで、野球観戦というのを全く面白いと思ったことがありませんでしたが、こういうデータやそれが何を示すのかを教えてくれれば、どの場面があついのかなどがわかって楽しめそうです。
観客が10試合に1回見に行くとして、.275の打率の打者と.300の打率の打者の差は見ているだけでは全く変わらないということから始まる、より深い出塁率長打率OPSなど多くのデータが語る選手の情報というのはテレビなどでも解説して、そういう側面から分析してそれを視聴者に伝えてくれれば楽しめるのにとも思いました。

また、各球団の1年という短気の成績を重んじることから来る選手の損切りの話などは、普通の証券市場にも当てはまり、相手も理解することが勝つために必ず必要になって来る要素であることなど、改めて考えさせられました。

安く買ってきて、高く売るという、当たり前のことを球団としてやっているだけなのですが、他の球団は全くそれをしないおかげで当時のアスレチックスがあるのに、この本の出版を許すことなど、大変興味深かったです。