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投機した時間の軌跡

【読書メモ】キノコと人間

目次

作品詳細

作品名:キノコと人間
作者:ニコラス・マネー
訳者:小川真
出版社:築地書館
発売日:2016年9月20日

キノコと人間: 医薬・幻覚・毒キノコ

キノコと人間: 医薬・幻覚・毒キノコ

 

要約

キノコはどのようにして育つのか

胞子→コロニー→交配したコロニー→キノコ→たくさんの胞子噴射、というサイクル

植物が光を糖類に変えるために光を求めるように、キノコは子孫を残すために重力のみを手がかりに成長する。宇宙で実験した際には、地球の中心を探すためにぐるぐると成長した。

キノコは成長というより膨張で大きくなる。菌糸の細胞壁を緩めることで浸透圧で圧力がかかり、細胞壁は際限なく広がることがないので、キノコ内の異なる組織の間に緊張状態をもたらして、茎を伸ばし傘を広げヒダを並べ立てることに繋がる。

キノコのコロニーは複雑な栄養葉急性を持っている。少ない栄養の中で自分を保ちながら、いくらかを胞子として撒き散らすという割と切羽詰まった生き方をキノコはしている。キノコのコロニーが巨大化する理由もこのため。

キノコが胞子を飛ばす見事な仕掛け

胞子は垂直のヒダの表面に対して水平方向に突き出ている。
担子器とういう細胞の上にでき、その数は2つの核が融合する交配が担子器の基部で進み、減数分裂によって別れるため4つと決まっている。4つの核がそれぞれ胞子の中に取り込まれ打ち出される。

射出の瞬間は、1秒あたり25万コマ以上の画像を捉えるカメラでしかわからなかったため、最近まで詳しくはわかっていなかった。
下の図のように、射出液は湿った胞子の表面に張り付いていて、根元から先端へ1μsで移動し、胞子は台座からはじかれて空中へ飛び出す。20世紀初頭の研究者は液体が残ることしか確認できなかったが、仕方のないことだと言える。

常に水分が供給され、ヒダ内が湿っていて、糖類が胞子の突起から出ているため、水を集め表面張力で水滴をうまく使い射出している。
その射出速度は、時速3.6km秒速1mで、人に直すと音速の500倍で動いていることになる。小さすぎる胞子からすると空気すら粘性が高いためにこのすごい速度を持ってしても、胞子数個分で止まってしまい、ヒダとヒダの間で速度がゼロになり都合が良い。

世界中で放出される担子胞子の量を推量すると、年間17メガトンでスーパータンカー100隻分にも相当する。

キノコ狩り

キノコを全く取らない場合、踏みつける場合、採取する場合で、踏みつける以外は同じ数だけ翌年には生えてきたが、踏みつける場合のみ著しく減少した。

ホワイト種とベビーベラ

マッシュルームが最初どこで取れたのかははっきりしていないが、味の濃さ、胞子の量の少なさ、病気に対する抵抗の強さなど条件が整ったキノコだったため量産されるようになった。さらに胞子の中に2対の核が備わっている特徴からも、すぐにコロニーを作ることができ、量産を容易にする特徴と言えた。

しかし遺伝的に同じものが作られるという特徴から、病気を受けた場合に全てがその病気に侵されやすいという面も持っている。そこから、シワが多いものや斑点模様のついたものなど色々なものができてしまうが、たまたま真っ白なスノーホワイトという種ができヒットもしている。
それまでは、ブラウン種かクリーム種という種だった。

 毒キノコとキノコ中毒

黄色い騎士と呼ばれるキノコとニセクロハツはシクロプロペンカルボン酸という体重100kgあたりの致死量が2.5mgの毒素を持っている。言語障害や痙攣、筋組織の破壊などが症状としてある。
しかし、両方のキノコともしっかりとしたキノコであったために片方は食用として勧められていたこともある。

しかし、何世紀もの間食べられていた黄色い騎士に、最近まで中毒事例がないのはなぜなのか。ニセクロハツも京都地方に集中して発祥事例があるのはなぜなのか。

研究によると、一般に食用とされる全てのキノコには筋肉に関わる毒素が入っていると結果がでている。しかしそれは人間換算で毎日4.5kgもの料を食べる必要があり、実際には中毒になるとは言いがたい。

キノコ中毒は、多くの機関が菌類学者にお金を割いていないためキノコの種類の把握や毒性を見つけていないために、キノコ中毒患者がどのキノコ中毒になったかがよくわからず助からないことがある。

多くのキノコ中毒で、賢蔵と肝臓がやられてしまうのは、これらの器官が血液の浄化機能を持っているためだと思われる。最近では、透析によってキノコ中毒は治療されることもある。

なぜキノコが毒性を持っているかは分かっておらず、代謝過程においてできたとする説や捕食者から身を守るためという説があるが、多くのキノコが毒とはいえない量しか毒がないため首を傾げざるをえない。

キノコと医療品

多くのキノコが様々な病気に効くとうたわれ宣伝されているが、そのどれもがFDAの審査も通らず、食品として出されている。
どれも、研究というには杜撰なデータしかなく、全てを信じない、万能薬はないと心得ることが必要である。

感想

 なんとなく図書館で手に取った本でしたが、すごい面白かったです。
ほんの冒頭に書いてある通り、キノコのことを今まで何も知らなかったですが、これである程度はキノコについて語れると思います。

キノコのヒダの部分でこんなにもダイナミックなことが起こっているなんて、この本読むまで知りませんでした。しかも、原理的に超低コストで大量の胞子を飛ばしている仕組みだってことに驚きでした。

その他にも、ほぼ全ての食用きのこに毒性があることや、中毒の発祥事例が一部に集中していることから、突然変異などが考えられることなど興味深いことでいっぱいでした。

まったく知らない分野の本はいろんなことが知れてやっぱり面白いですね。
これからも、図書館で借りるときはこういったまったく知らない分野の本を攻めていきたいと思います。