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【読書メモ】ゲンロン0 観光客の哲学まで

今年の4月に発売されて、各紙で絶賛の嵐だった本書ですが、実は僕も発売と同時に買いました。けど飲み会の行き帰りの電車で読もうと持っていった結果、酔ってどっかに携帯と一緒になくしてしまった本です。人から借りて読めてよかったですわ。

携帯はすぐ見つかって日本人ありがとって思いましたが、本はさすがに見つかりませんでした。かなしい。

目次

作品詳細

作品名:ゲンロン0
作者:東浩紀
出版社:ゲンロン
発売日:2017年4月1日

ゲンロン0 観光客の哲学

ゲンロン0 観光客の哲学

 
こんな人にオススメ
  • 近代から現代までの思想について軽く知りたい方
  • グローバリゼーションに漠然とした不安を持つ方
読むと得られること
  • グローバリズムについての新たな思考フレーム
  • 現代までの大きな影響を与えた思想家の簡単な思想
  • 材料を組み立てる論理的思考力の訓練
読もうと思った理由・期待したこと

読もうと思った理由は東さんの生放送なんかを見たときに、面白いことを言う人だなぁと感じたからです。生放送でもテレビでも媒体ごとにその人の出来る表現には限界があると思っているので、一番その人の人となりとか考え方に触れられるのは会う以外だと本しかないと思っているので手に取りました。

要約

次の3つから、観光客の哲学を導き出す構成になっている。

  1. グローバリズムについての新たな思考フレーム
  2. 人間・社会を不必要性・偶然性から考える必要性
  3. 「まじめ」と「ふまじめ」の境界の先にある知的言説
過去の思想家たち
  • カントは、永久平和の3原則「共和制による国内法・その上に設置した国際機関の国際法・自由に行き来する権利」を構想した。
  • ヘーゲルは、「人間」は家族の中で「特殊性」を獲得し、社会に出ることで「普遍性」を獲得することで個を引き裂かれ、その調和として国家を作り属することで「人間」たりえると考えた。
  • シュミットは、全ては二項対立からなるとし、ヘーゲルを極限まで解釈して政治とは友と敵の対立からなるという「友敵理論」を展開した。
  • コジェーブは闘争することこそが人間を「人間」にするという「ポスト歴史論」を展開し、それをしないものを「動物」を呼んだ。
  • アーレントは生命力を売るのは人間でなく「動物」で、人と人との間でのみできる活動をすることが「人間」だという「人間の条件」を展開した。

シュミット以下は、19~20世紀に出現したグローバリズムが可能にする快楽と幸福のユートピアの申し子「消費者」のアンチテーゼとして古き良き「人間」を見ている。

以上のようなの思想家の枠組みでは、家族・市民・国民・世界市民という枠での普遍性の獲得しか説明できず、グローバリズム時代を説明する方法を探っていく。

二重構造を乗り越えられなかったマルチチュード

現代は、政治は国家単位、経済はグローバルに一つで動く二重構造の時代である。

国家は人間を「人間」として扱い、グローバリズムは人間を「動物」として扱う。これらは互いに排他的でないのがこの時代の難しいところである。

ネグリとハートは、これを乗り越える思想として「マルチチュード」を構想した。これはグローバリズム層そのものが生み出すネットワーク状の自己組織化・連帯というもので、「政治から排除されてきたものたちが作り出す政治」という「否定神学的」なもののことである。しかし、その政治を現実の政治と結びつける戦略論が欠けていたため否定神学の域を出ることができず、夢物語になってしまっている。

その偶然起こる連帯のことを「誤配」と呼ぶ。

乗り越えかたとして十分機能するので、これを補って二重構造に立ち向かう。

郵便的マルチチュード

著者の20年前の著作「存在論的、郵便的」で「否定神学」と「郵便」対比させている。

  • 否定神学的とは、存在しえないものが存在しないことによって存在するという逆説的な修辞を指す。
  • 郵便的とは、存在しえないものは存在しないが、現実世界の様々な失敗の効果によって存在しているように見え、その限りにおいて存在するかのような効果を及ぼす、現実的な観察。

否定神学マルチチュードは、連帯しえないことで連帯を夢見てたから失敗だった。

郵便的マルチチュードは、連帯の失敗によって連帯らしきものがあったと錯覚し、その錯覚が連帯を後押しするため連帯の効果が出る。「誤配」が「誤配」を促す構造、それが観光客=郵便的マルチチュードの連帯である。

ネットワーク理論

観光客を正しいと説得するために、世界の狭さと不平等な人間関係の繋がりについてネットワーク理論で思考の補助線を引く。

頂点の接続先を「つなぎかえ」ることによってクラスター係数に影響を与えないまま、平均距離の劇的な短縮を証明し、社会学でいう「六次の隔たり」、ここでいう「スモールワールド」という現実社会の世間の狭さを説明可能にした。

少数の場所にネットワークが集中することを「成長」と「優先的選択」という時間軸的な視点入れることで説明可能した。新規の参入者によるネットワークの「成長」、その参入者がネットワークに多く繋がっているものを「優先的に選択」することを考えれば「スケールフリー」という不平等なネットワークが成立し「つなぎかえ」が起こらなくてもいいような世界が成立する。

ヘーゲルを乗り越えて

国家とグローバリズムを説明する思想としてガタリドゥルーズの「ツリー」「リゾーム」があった。この時代にはネットワーク理論がなかったためイメージの中での話であったが、言葉を変え「スモールワールド」「スケールフリー」とすれば、多数のクラスターからなる狭い世界と次数のべき乗分布による不平等な世界を同時に説明できる。

つまり、同じひとつの社会的実体のふたつの解釈が可能になる。ヘーゲルの思想は、技術が追いつかずスモールワールドしか見えなかった時代の社会思想なのではないか。

スモールワールドをスモールワールドたらしめる偶然の「誤配・つなぎかえ」の操作によってつながりが広がり国家が作られ、その後「成長」と「優先的選択」によってスケールフリー・グローバリズムへと移行する。そして「スケールフリー」状態から「誤配・つなぎかえ」を奪い返す「スモールワールド」という空間そのものから生じる演じ直しが現代に起こっている連帯・テロ・保守主義ではないだろうか。

それを「観光客の原理」と名付けた。 

感想

難しい内容を書いていると思うんですが、こんなに読みやすい本ってあるんだなってくらい普通に読めました。材料の出し方と組み立て方によどみがないからこうなるんですかね。文章書く人として、参考にしたいです。

とりあえず、長かったので観光客の哲学までを要約しました。僕自身もわかりづらいと思う箇所があるので、近いうちに修正できたらいいなと思ってます。

本から得られたことは、ネットワーク理論も大雑把にしか知らなかったので少しだけネットワーク理論の概要がつかめました。他にも、現代のSNSにも通じるようなことからグローバリズムと国家が解説されていて、現代がどんな動き方をしてきたのかというのの思考への補助線をだいぶ引いてくれたと思います。

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