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【読書メモ】意識はいつ生まれるのか 後半

 こちらの続きです。

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目次

作品詳細

作品名:意識はいつ生まれるのか
作者:マルチェロ・マッスィミーニ ジュリオ・トローニ
訳者:花本知子
出版社:亜紀書房
発売日:2015年5月25日

意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論

意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論

 

 

要約

5章 鍵となる理論

統合情報理論の呼ばれる理論の命題は「ある身体システムは、情報を統合する能力があれば、意識がある」というもので、意識には「情報の豊富さ」と「情報の統合」という基本的特性があることから得られたものである。

  • シャノンの情報理論の時代から情報は「不確実性を減らすこと」と結び付けられ、情報量は「排除された選択肢の多さ」で決まるとされている。無限の可能性から独自の排除方法を使うことが意識にとってかかせない。
  • 100万画素のデジカメには2x100万乗の可能性があるからと言って意識はない。100万画素がそのまま写し一つ一つ独立していて分解しようが成立する。人間が「一なるもの」として見ているため一つの写真として見える。

ここから2つの公理と、命題が得られる。

  • 第一公理、意識の経験は無数のレパートリーに支えられ、独自の方法で排除した上で成り立つ
  • 第二公理、意識の経験はどの状態も単一のものとして感じられ、意識の基盤も統合された単一のものでなければならない
  • 意識を生み出す基盤は、無限の異なる状態を区別できる、統合された存在である。つまり、ある身体システムが情報を統合できるなら、そのシステムには意識がある

この「差異」と「統合」という相反する性質が奇跡的なバランスで成り立っているからこそ意識は現れる。

この身体システムの情報量(Φ)を測るには、システムが持つ潜在的な可能性の大きさを見る必要がある。また、システムが独立的か統合的かを見る時には、てんかん患者の分離脳から統合システムであるためには相互に情報を伝え合うことが条件だとわかる。

全てが独立した構成要素も全てが同じように相互作用を与える構成要素も、どの構成要素にインプットをしようと返ってくるΦは変わらないため値は小さい。

あるシステムのΦを最大にするためには簡単なシステムでも膨大な算出時間がかかるほど難しく、いかに脳が奇跡的なのかが再認識できる。

Φは「多様な相互作用」と「統合」バランスによって値を大きくする。

システムに別のシステムを追加した場合はどうだろう。大きなΦになるかというとそうではない、別のシステムとの連結部分のΦが小さくなり、全体としてのΦはコアの構成要素のΦとなる。

つまり色々な分断を想定して測定により必要のないものを分けて、Φの高い部分・情報統合のコアを見つければ、意識を求められると言える。

6章 頭蓋骨のなかを探索してみよう

最初の難問は、複雑なニューロンシナプスの大部分が意識の発生と関わりがないということである。情報統合理論が正しいならば、小脳よりも少ない数のニューロンからなる視床-皮質系の方がΦが高いとなる。

その理由として、小脳には脳梁に当たるものがなく、単位ごとに分解を試みても小脳には繋がりが存在せず全体に波及するような相互作用がないためである。つまり小脳はデジカメと同じように一つ一つ独立したΦの小さい器官であると判明した。

視床-皮質系は、脳梁の存在や線維の束がいくつも様々な場所へと繋がっていることで、相互的に繋がり反応するため「暗い」と感じたら「赤い」「臭い」「冷たい」などの別の反応は取捨選択される、一つの器官と言える。

また、感覚・運動・活性化システムや基底核は意識という大きなシステムへの小さな別システムからのインプットアウトプットと捉えることができるため、常に大きな意識たり得るものは視床-皮質系である。

意識の発生に0.3秒ほどの時間がかかることも、統合情報理論からすると様々な相互反応の結果として意識が生まれるのでそれまでの所用時間と説明することができる。

踏み入って考えれば、意識があるからこそ時間があり、小脳や基底核のように即座に処理できる器官だけなら時間はないのではないかとも考えられる。

7章 睡眠・麻酔・昏睡 意識の境界線を測る

これまでの統合情報理論によって意識があるかどうかの判断基準に、ニューロンの活動レベル・同期レベルの測定がなぜふさわしくなかったのかが判明した。両者のバランスこそが大事だったからである。

意識があるかどうかを見るためには、下記のようにすべきであると本書は言う。

脳の情報統合能力を測るには、大脳皮質ニューロンの集合体をじかに刺激しなければならない。そうやって反応の広がり(統合)や複雑さ(情報量)を記録するのである。反応は、ミリ秒単位で起こる。

これを理論上だけでなく現実のものとして実験するには、TMSと脳波計を使えばいい。

  • 睡眠で実験して見ると、ニューロンへの刺激に対する反応の広がりに普段との違いが現れた。意識は統合で成立し、意識がなければ情報まで失うと判明した。
  • 夢の実験では、夢を見るレム睡眠に入る前に素早く眼球が動くことを利用して夢のタイミングで反応を見ることに成功し、その反応は覚醒時と同じ脳波であった。
  • 麻酔の実験では、睡眠と同じような効果の麻酔とニューロンを抑制する麻酔があると判明した。これによって、大脳はバランスを乱すだけで意識は取り除け、意識を失わせる物質が数え切れないほどあることの説明になりそうである。

これを逆手に取って、TMSと脳波計を使うとロックトイン症候群や最小意識状態の患者は健康な人と変わりない意識を持っていること、さらに従来では判定できなかった昏睡状態の人の脳内の意識まで判定することが出来るようになった。

8章 世界の意識分布図

自分以外に意識があるかないかを分析するには、行動の複雑さと脳の大きさを見るのがいい方法だと思われる。

人間以外に目を向けると、イルカは脅迫的な社会生物で、オウムは様々なことを覚えるし、タコは他のタコのしていることを真似して学ぶ、無機物で言えば、ワトソンやディープブルーは人間も超える計算能力を持つ。

しかしこれらは、人間や遺伝子が行動様式を決定していると考えられ、行動自体は意識と繋がらない。

では脳の大きさはどうだろう。体の大きさもあるため「脳化指数」と言うものを使って体や同じサイズの動物との比率で見ていく。同時に情報を相互交換しているかも見流必要があるが、そうした機器は未だに開発できていない。

9章 手のひらにおさまる宇宙

ここまでで、手のひらにおさまる脳と言う物体が意識を持つ客観的な統合情報理論で見てきた。この理論は、様々な問題に対して答えをくれてきたがこれからどうなるかわからない。

統合情報量も、質量や電荷、エネルギーのように、基本的性質の仲間と認められたら?そもそも「it from bit」は新しい考えでもない。

もしかしたら、赤ちゃんが意識を獲得する肯定派、遺伝に基づいた行動を通した経験を通じてレパートリーを増やすことで意識を獲得しているのかもしれない。

もし意識を科学で還元できるとしたら、意識はただの付帯現象に過ぎなくなってしまう。自由意志などないことになってしまうのだ。
結局のところ、自身が自身の行動の最初の原因となるとき我々は自由だと言える。この点はもっと考えるに値するだろう。

科学の発展とともに人間はあらゆる幻想を捨てさせられ宇宙の片隅に追いやられた。この理論が正しくΦ計算ができる時代になったら、また人間は宇宙の中心に戻れるかもしれない。

感想

脳と言うものがどれだけ特別なものなのかを改めて教えられた気分です。

意識と言うわけのわからないものを探る上で、現在では昏睡状態からの回復兆候からの判定や最小意識状態の人には普通の人と変わりない意識レベルが見られることなど、死とは何か、自分とは何かと言う哲学的な線引きまで考え直させられました。

昔だったら「ご臨終です」と言う人が生きてしまうと言うと変ですが助かってしまう時代から、その状態でも意識があるとわかるようになったことは患者側にもしなった時には、わかってもらえないと言う悲しいことになってしまわない世の中に近づいているのはなんだか安心ですね。

意識と言うものを扱うので、哲学的な思想にも多く触れられ、最近の僕の中での学びたいこととも思いがけず一致して満足しました。

普段、テレビや新聞でもよく取り上げられる脳科学と言うものの基本的な知識や考え方を習得できたのはけっこうな財産になると思ってます。

本を読む時間があって、こういった分野に少しでも興味があれば是非おすすめしたい一冊です。