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【読書メモ】水の未来

目次

作品詳細

作品名:水の未来
作者:沖大幹
出版社:岩波書店
発売日:2016年3月18日

水の未来――グローバルリスクと日本 (岩波新書)

水の未来――グローバルリスクと日本 (岩波新書)

 
こんな人にオススメ
  • 水についての新しい見方を知りたい方
  • 水が世界的にどう考えられているか知りたい方
読むと得られること
  •  水のリスクが世界的には一番高いこと
  • 水と石油の貿易的な意外な関係
  • フットプリントという概念
読もうと思った理由・期待したこと

昔にも1冊か2冊水に関する本を読んだことがあって、おぼろげですがカリフォルニアでは多肉植物に植えかえたり、カスピ海だかアラル海が干上がりかけていたり、水は日本の資源になりうると言うようなことを読んだと思うので、そちら方面の知識をもっと深めたいなと思い手に取りました。

要約

水の問題

日本のように主要な自然災害全てを受ける国は少なく、全ての国が受けうる災害が水の災害である。さらに、経済がグローバル化したことでローカルな洪水などのリスクは、世界全体のリスクとなった。

水が足りないと以下のようなことが起こる。

  • 労働力問題...水運びは労働の観点からも機会損失が大きいと言える
  • 健康リスク...トイレが無いために水を汚染し、そこから健康被害を受ける

また、水は使うと汚れるため対応が後手に回りやすい。川の汚染は水の滞在時間のおかげで改善したが、地下水は1000年単位なため気付いても遅いかもしれない。

国債河川や地下水は国をまたいで通っているために「共有地の悲劇」に陥り易く、地下水は地盤沈下など問題が起こることもある。

しかし悲観的になりすぎる必要もなく、基本的に循環資源である水はストックではなくフローで考えるべきで、問題は季節的・地理的に偏在することと単価が安すぎるために輸送コストをペイできないことくらいである。

これらの問題が解決できていないのは、社会基盤施設や政府、社会の適切なガバナンスの不足によるもので、地球の水の年間フローの試算から人間の使用量はまだ10%しかないと言う。これからの工夫次第であると言える。

水リスク

水資源は、普段の雨の降り方を前提としてそのシステムを作っているため、いつもと違うことが起こると災害へと発展してしまう。これが世界のどこかでいつも起こっている洪水や渇水である。

国や公の組織だけでなく私企業までもが環境に配慮した行動を取っているが、これは炎上やボイコット、商品の価値増強、永続する企業としての持続可能性の考慮にまで目を向けた戦略だと考えられる。

2014年7月にISO14046として発行されたウォーターフットプリントは、各種類の水をどれだけ使い汚し環境に影響を与えたかを知れる指標である。

しかし季節的・地理的な相対的影響のブレなどからデータベース化がまだ追いついていないこと、機能単位の設定など限界がある。二酸化炭素は量と気温が比例するからわかりやすいが、水の場合には一定の効果が現れるとは限らないため難しい。

ウォーターフットプリントは熱帯の国の作物の方が多く水を使うため不利になることや課税に使おうとして拒絶反応を返されていることなど前途多難である。

仮想水貿易

食料や工業製品に到るまで全てのものに水が必要で使っているとすると製品の貿易は実質的に「水」を貿易していると考えられる。これもウォーターフットプリントと同じで、季節・地理的に元の水の量が違い、技術や気候条件でも使う量が変わるため不平等かもしれない。

日本はこれで考えると水に恵まれた国という常識から、水を輸入しまくっている国と味方が変わるかもしれないが、どちらかというと農耕地・牧草地の仮想的輸入と見た方が自然である。

世界の仮想水の行方を見ると先進国・インド・タイなどから東アジア・中東・北アフリカへと流れていて、石油の輸出入とは逆になっているのも興味深い。

難しいのは、仮想水貿易の多寡が環境に直結するわけでなく、エコロジカル・カーボン・ウォーターフットプリントなどとともに包括的な評価をする必要がある。

気候変動と水

平均気温が1度上がると、全人口の7%が20%の淡水資源の現象に見舞われる。

農業的旱魃の頻度は増える可能性が高く、上水道は水温の上昇、激しい雨に伴う土砂や栄養分や汚染物質濃度の上昇、洪水期間中の浄水場の運転中止などで、水道元帥の悪化で供給のリスクが上がる。

気候変動という不確実性を持つものの中で、対策や適応策をコストとリスクマネジメントを判断して行うのは難しいため、どの国も慎重になっている。

未来へ向けて

消費社会から抜け出すようなものでなく、正しく十分に社会インフラを整えればまだまだ水や食料やエネルギーは使っていけると考えられる。

持続可能な開発は究極の目標でなく、人類の健康で文化的な生活の実現のための手段であることは忘れてはならない。

世界に目を向ければ、人類全体で労働時間は減り、乳幼児死亡率も減り、平均寿命も伸び、インフラ供給も増えている。

水の悲観論者は間違っているが役に立つ。水の楽観論者は正しいが、危険だ。

感想

まずは、改めて日本って自然災害に囲まれた国なんだなっていうのを確認させられました。自然災害を挙げている部分で、主要なもの全てに該当する日本によく人が住んでるなとも思いました。

「仮想水貿易」の部分が一番印象に残っていて、言われてみれば農作物にも工業製品にも水っていうのは使われていて、それがどれだけ質的量的に使われて汚されたかを見ることはできます。それを製品に表示しようという動きもまぁ栄養表示やエコ関連の商品を見てればわかりますが、それを「貿易」として捉えて日本は水を輸入していると言われた時には、当たり前なのに衝撃でした。

しかも、世界の仮想水貿易を見ると石油と真逆の関係になっていることも、言われてみればそうなっていて然るべきですが、データとして見ると驚きです。

なんだか世界の見方が少し変わった本でした。

途中の章からだれて、正直面白くない本だと思ってしまいましたが、途中までの水に関するフットプリントや仮想水の概念紹介までは、とても面白くてオススメの本です。