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投機した時間の軌跡

【読書メモ】チーズと文明 下

こちらの記事の続きとなります。

目次

作品詳細

作品名:チーズと文明
作者:ポール・キンステッド
訳者:和田佐規子
出版社:築地書館
発売日:2013年6月10日 

チーズと文明

チーズと文明

 

要約

市場原理とチーズ

ベネディクト修道会やシトー修道会の労働倫理は経済発展に向かわせカルヴァン宗教改革運動経済は各人へと労働倫理を拡大させた。

イングランドでは荘園が崩壊後にヨーマン階級へと農業が移ったが、チーズ製作の専門家はそのまま雇い直されたため技術の失伝はなかった。

ロンドンに巨大市場が出現し市場原理が働くと、チーズの作成過程の油分搾取でつくられるバター作成に傾倒し、チーズはフレットチーズと呼ばれる低品質品へと変わったが、長持ちする性質を持っていたため最初はうまくいっていた。

ロンドンが繁栄すると高品質のチーズが外国から輸入され、同時にフレットチーズの産地が洪水被害を受けると、チェシャーから来る品質の高いチェシャーチーズがロンドンでは人気となり、旧産地ではバターを作らせて利益を最大化するように商人は動く。

地理的に遠いチェシャーからの輸送リスクを全て負っていた商人たちは次第に重量の大きなチーズを求めるようになり、チェシャーはその後150年間この課題を解くこととなり、様々な技術革新を起こした。

女性の秘密の知恵だったチーズ製法には急激に科学が入り込み、乳搾り女という地位は脅かされた。19C後半のアメリカではチェダーチーズ工場が成功が収め、イングランドに輸出を開始したため、価格競争が発生したためイングランドのチーズの制作者たちは牛乳をそのまま売るか、チーズ製作を工場化するかを迫られた。伝統的チーズは19C末に激減、20C最初の30年間に復活を遂げるも度重なる戦争と恐慌で消滅し、現在では復活させようと奮闘している。

 

オランダは地理的に農耕に向かない性質で酪農をしていたため歴史的にチーズを作ってきた場所だったが、その地理的不利さにどの民族も支配せず、取り残された辺境であった。

11~14Cに土地改良を行い、その改良の労働力不足を補うために土地の権利を認めたことなどもあり自由農民による比較的大きな家族経営の農業という特色を持った。

繁栄を続けたオランダだが、人間による生態系上の危機が起こり農耕が難しくなり、再び酪農への道を進む者が出たことがチーズの急速な発展にも繋がっている。しかし多くの農家は北海と戦う選択肢をとり、現在にも残る風車の風景への道を歩んだ。

水はけが悪いことには変わりないので、大麦やホップを作ることになり食料は輸入に頼らざるを得なくなり、ビールやチーズという特産品の開発が進んだのは当然のことだった。

15~17Cにかけて経済成長を遂げ、特産品作りは高度に専門家され農家は巨大になっていった。オランダ帝国主義の黄金期が終わった後にも、チーズ作りは経済に貢献し続けた。20Cまで残り続け、国を挙げて投資をしていたこともあるが20C末までには姿を消してしまった。

ピューリタンとチーズ工場

アメリカに移民したピューリタンニューイングランドと作った。初期の移民はイーストアングリアの酪農地域出身者、ロンドンの商人階級が多かったことやマサチューセッツ湾植民地の初代提督の妻がチーズ専門家たちの監督だったことから、チーズが商業的に製造されることとなり、その後も本国からの入植者によってチーズの技術は更新され続けた。

家畜を巡る酪農家と先住民の対立や先住民がラム酒を生活に取り入れたことで、先住民たちはアルコール依存・貧困・絶望に支配されることとなった。

18Cの西インド諸島ではプランテーションが経営されていて食料を輸入しなければならなくなっていた。ニューイングランド商人は好機を逃さず、ロードアイランドなどのチーズやバター・西インド諸島ラム酒の原料モラセス・アフリカ大陸の奴隷の三角貿易を主導した。そのため分業と専門化はますます進んでいくことになる。

アメリカで起こった重要なチーズ革新は、グロスターやチェダーなどの水分量の少ないチーズの表面に繰り返しホェイを塗ると言う「仕上げ塗り」や木綿の包帯でチーズを包でホェイを塗るといったような特有の高温気候への対策だったが、チェダーチーズの熟成の過程を単純化することがわかり、チーズを発展へと導いた。

アメリカのチーズ産業は、奴隷制廃止で西インド諸島へのチーズ輸出はなくなったが、本国や本国の産業革命で綿花が必要になりアメリカ南部へ建設した綿花プランテーションへの需要で大きく成長していった。

ニューイングランドはチーズで蓄えた資本を投下して繊維産業へと進出した。これにより女性の衣類を作る仕事がなくなりチーズ製造へと集中した。

しかし商業的農家は手狭だったニューイングランドを捨てるのは早く、西へ西へと進出していった。チーズ製造も西へと移り、ニューイングランドでは高利益のバター製造へ移った。農業の西への移行は、人口のほとんどが日々の食料を作らなくなると言うことで、工業時代の始まりとなった。

新時代へと突入したチーズ生産では、イングランドと同じく科学的知識により女性が排除された。「工場」と言う概念が作られるとチーズ製造は工場が全てを担うようになった。この頃は科学的法則の応用のし易さとブランド力が圧倒的だったチェダーチーズが大量に生産された。

生産力が過剰になるとイーストアングリアと同じ過ちを繰り返し、油分を最大限取り出しバターにするという誘惑にかられ、19C後半にはアメリカのチーズは品質が落ちた。凋落までの課程で、様々な革新を起こすも価格の下落にかなわなかったが、低温殺菌・標準化・微生物学・化学組成コントロールなど品質血管の減少に大きな足跡を残した。

原産地保護と安全性をめぐって

世界はGATTの元でWTOを創設し、共通の基準を作り出そうとしたが知的財産権・製品の安全レベルを巡る問題で未だに続行中である。

チーズに関しても、これまでの歴史から地理的表示の原産地を巡る問題があがった。チェダー地方のチーズだったチェダーチーズは一般名称になっていたりと地理的表示を取得できないものなど、地理的表示を巡る問題が起こった。特に合衆国とEUでは、辿ってきた歴史の長さ、それまでの法があまりに違い、歴史的な争点や文化的であるがゆえに感情的な争点が混じり合い困難なものになっている。

もう一つ歴史的・文化的な違いで発生した問題として、合州国は工場をより効率化させ巨大に均一的に生産をしたため安全基準をより厳しくしてきたことに対して、EUや他の国では伝統的チーズに価値を見出していた。この違いによって合衆国は国内で出回るチーズ全てに対して生乳を使用禁止にしてしまいたかったが、「等価性の原則」と言う例外を残すこととなった。

「等価性の原則」とは、アメリカで義務化される低温保持殺菌と同じだけの安全性が製造過程全てで優位に同等かそれ以上の場合に、生乳を使用していてもアメリカで販売できると言うものだった。他国にとってアメリカ市場は重要であると伺える。

他にも論争になる分野として、肉牛への成長ホルモンや抗生物質の使用・遺伝子組み換え作物など様々である。

これからどのようにチーズが進化していくかわからないが、アメリカ国内での伝統チーズの復活やより資本主義的なチーズのコスト削減など正反対のものが同じ国で見られるのは驚きである。経済と文化の衝突は誰かが大きな代償を支払うこととなるため、誰がそれをするかは定かではないが、誰かがしなくてはならないだろう。

感想

ごめんなさい、まだ要約途中ですがそのまま投稿します。
2017/12/1に読み終わりました!

引用の形にしてある場所が読み終わる前の感想です。

1章1章が、前の章と密接に関わりあっていて読むのに時間がかかってます。西洋史をチーズとの関係で網羅していくので、西洋史の知識がセンター世界史レベルしかない僕では、読むのに調べて思い出しながらなので、なかなかの時間がとられてます。

けれども、それに見合うだけの面白さがあります。

ここらへんの章になってから、現代でも見かけるようなチェダーチーズやパルメザンチーズなど馴染み深いものが出てきていて、そのルーツは前の章で書かれていたことで…と言う風にどんどん繋がっていくのが、とても面白いです。

おぼろげだった西洋古代史・中世史などの要点がチーズで整理されるのは本当に覚えやすくていいですね。けど受験生にはおすすめできないですね。世界史なんて覚えとけば何とかなるので、負担が増えることはしなくていいですし、そこまで世界史にかける価値って受験にないですからね。

受験とかそういう強制的なものがないからこそ、こうやって好き放題に読んで楽しいって言うのはあると思います。

残りの章も読んで要約を完成させて、一冊通した感想もここに更新しようと思うので、よろしくお願いします。

経済的成長がチーズに与えた影響が大きくて、そこまで変わるものなのかと驚きました。

チーズをどれだけ巨大化させられたかで、その地域の文化的・宗教的なまとまりを表していると言ってもよく、市場経済に巻き込まれると同じような失敗を繰り返しながらも、前の段階よりもどうにか成長していってと言う風に、今の経済と何も変わらないことがチーズで起きていたなんてなんだか面白いですね。

貿易に関しては、ヨーロッパから技術を持ち込んで名前も技術もそのまま使ったアメリカにこだわりが全くなく、長い歴史の産物として見ているEUなどは強い文化的こだわりがあるなど、対比として素晴らしいですし、各々で競争するならいいですが、一つのWTOの枠組みの中でとなるとやはり大変なんだなとわかり合うことの難しさも教えられました。

様々なことが一冊で学べるすばらしい本でした。是非オススメしたい本です。