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【読書メモ】若きウェルテルの悩み

目次

作品詳細

作品名:若きウェルテルの悩み
作者:ゲーテ
訳:高橋義孝
出版社:角川学芸出版
発売日:1967年4月30日
原作発売年:1532年

若きウェルテルの悩み (新潮文庫)

若きウェルテルの悩み (新潮文庫)

 

あらすじ

物語の最後以外は、主人公のウェルテルの書簡と日記から構成されている作品です。

主人公は、悲観的でセンチメンタリズムな人間として描かれます。そんな主人公が、ある日、シャルロッテという女性に出会う。その女性ロッテは、若くして母を亡くし6人の兄弟の面倒を見るそん献身と、その天使のような美しさに一目惚れをしてしまう。シャルロッテもウェルテルの聡明さや詩的精神に惹かれ、2人は惹かれあっていく。

しかし、ロッテにはアルベルトという婚約者がいた。アルベルトは仕事で今は離れていたが、ついに帰ってきてしまう。アルベルトにあって見ると実に好青年で非の打ち所がなく、ウェルテルは逃げ出してしまう。

逃げた先で、仕事につくも上司と折り合いがつかず、さらに同僚の社会的地位が高かった職場のためパーティーなどで蔑まれたり、ロッテとアルベルトの結婚を知ったり、多くのことが絡み合い自暴自棄になり仕事を辞め、ロッテの近くへとまた移り住む。

だんだんと自分の感情に抑えが効かなくなり、悩む毎日を過ごすことになる。

ある日、近くの家で事件が起こる。その家の未亡人だった女主人を好いた農夫がその息子たちから財産が減ることを恐れられ、追い出されてしまうも、別の農夫が女主人を射止めたと聞き、追い出された農夫が射止めた農夫を殺すという事件である。

これを自分に重ねたウェルテルが、何としても農夫を助けようとするが、助けられなかった。他にも、ウェルテルと同じようにロッテに恋い焦がれ恋に狂ってしまった青年の話などもあり、ウェルテルは全て他人事とは思えなくなる。

しかし、聡明なウェルテルは自殺を考えるも、人間のすぐ忘れる性質からロッテの気はその自殺して数瞬しか引けないことなど、多くの葛藤と戦いながら自殺へとむかっていく。

感想

心理学でも習うような「ウェルテル効果」の原点である若きウェルテルの悩みを読みました。250年も前の古い本ですが、今も色あせることなくセンチメンタルな青春の全てを描いている作品だと思います。現代に発売されるどの作品よりも、多くのことが感じ取れる作品だと思います。さすが、これだけの年月を超えた作品だと思いました。

人間は250年も前から、同じことを繰り返し感じて考えてきているんだなと思わされま

す。

盗みが罪だということは真実だ。しかしさし迫る飢えから自分自身や家族の者を救おうとして盗みを派たらいた者は、同情に値するだろうか、刑罰に値するだろうか。......情熱、陶酔、狂気。しかし君達は悠然と無感動に澄ましかえっていられるんだね、君たち道徳家は。......何か大きなことや、何か不可能に見えるようなことをやってのけた非凡人は、みんな昔から酔っ払いだ、狂人だといいふらされざるをえなかったことが、ぼくはぼくなりに分かってきたように思う。しかしこの世間でだって、誰かが自由で気高い意想外な仕事をやりはじめると酔っ払いだのばか者だのって取り沙汰をするが、あれも実に聞くに堪えない。無感動な君たち、利口な君たちも、少しは恥ずかしいと思いたまえよ」

これは未だに、言われ続けることで何も変わっていないと思います。それを250年かけても、未だに無感動さ利口さを至上とした世界はどうなんだと思わされます。

人間の本性には限界というものがある。喜びにしろ、悲しみにしろ、苦しみにしろ、ある程度までは我慢がなるが、そいつを越えると人間はたちまち破滅してしまう。だからこの場合は強いか弱いかが問題じゃなくて、自分の苦しみの限度を持ちこたえることができるかどうかが問題なのだ。精神的にせよ、肉体的にせよだ。だからぼくは自殺する人を卑怯だというのは、悪性の熱病で死ぬ人を卑怯だというのと同じように少々おかしかろうっていうんだ

無感動、利口さを至上としていた僕としては、自殺は弱さだと思っていたので、こうも考えられるんだなぁと思わされます。
それと同時に、センチメンタリズムのみで生きていて、さらに不幸の絶頂やそれを未だに覚えている人がこの本を読めば、それはもう共感と同時に自殺を考えて、それを実行してしまう人が一定割合出てもおかしくはないなと思いました。

そうだ、ぼくは放浪者にすぎぬ。この世の巡礼者だ。しかし君達もそれ以上のものなのだろうか。

突然、これだけの書簡なのか日記なのかわかりませんが、文が出てきます。なぜかこの短い言葉に惹かれてしまいました。

僕たちは、お金だとか地位だとか名誉だとか、色々なものでマウント合戦をして自己優位性で塗り固めて、なんとか相対化して優位をとることで精神を安定させているように感じます。しかし、この言葉の通り、みんなただの放浪者で目的なんかなく、なんとなく生きているだけなんだってことを、教えてくれる言葉なんだと感心してしまいました。

昔の古い人の色あせた本だと食わず嫌いせずに読んでみてよかった本でした。