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【読書メモ】ケルト神話と中世騎士物語

目次

作品詳細

作品名:ケルト神話と中世騎士物語
作者:田中仁彦
出版社:中央公論新社
発売日:1995年7月25日

ケルト神話と中世騎士物語―「他界」への旅と冒険 (中公新書)

ケルト神話と中世騎士物語―「他界」への旅と冒険 (中公新書)

 
こんな人にオススメ
読むと得られること
  • ケルトの思想的柔軟さ
  • ケルトとキリストが融合したことによって残った文献の数々 
  • ケルト神話と中世騎士物語の共通点
読もうと思った理由・期待したこと

随分昔に歴史を学んでみようと「オスマン帝国」と言う本と一緒に買った本です。「オスマン帝国」の方も読んでまとめたいと思います。

世界史で受験が終わった時に世界の歴史と文化を知っておくことも教養として必要かと思って読もうと思いました。 

要約

ケルト人 

いち早く馬を飼いならした騎馬民族でB.C.2000年頃から膨張をはじめ、初期鉄器文明ハッシュタルト期の最初の担い手となりヨーロッパッ中西部を駆け巡り、第二鉄器文明時代ラ・テーヌ期(B.C.5~3C)にも地中海世界に現れデルフォイの神殿を荒らしたりしている。

最盛期(B.C.4~3C)にはヨーロッパのほぼ全域を制覇したが、ローマ・ゲルマン・アングロサクソンに時代とともに追いやられ、現在のウェールズ・コンウォール・マン島などの地域に住むこととなった。

ケルト人の文化

文字で教えを残すことをドルイドは悪としたためケルトの文化的資料は、キリスト教と融和した以降のキリスト教の司祭が書き残し、改鋳の入った文献と敵国のものが多い。

古代宗教ではよく万物の母として大地を崇拝するが、ケルト人も同じで大地母神は4つの側面を持っていた。

  • 豊饒と多産の女神
  • 主権者としての女神
  • 戦いと殺戮の女神
  • 死者をあの世へ運ぶ女神

キリスト教との融和において、ケルトの土地母神アンと聖母アンナが同一視されたためすんなり融和できたと考えられる。そのことからケルトに入ってきたキリスト教は東方聖教だったと。

またケルトの特殊な思想として「他界」信仰がある。それも地獄や天国のように別の場所にあるわけでなくすぐ近くの洞窟などどこにでもあって、「あの世」と「この世」は深く関わりあい行き来も出来ると言うものであったため、ケルトの戦士は勇敢であったとも言われている。

ケルトの神と変遷

「侵略の書」によるとアイルランドは、パローロン、ネヴェ、フィル・ボルグが順に侵略した。これを追いかけてきた「ダナの息子たち」が侵略し、その後「ミレシアの息子たち」が最後の侵略者となる。これがケルト人である。

そして「ダナの息子たち」がストーンヘンジを作った民であると考えられる。

どこから来たのか分からないが、おそらく天から来たのであろう。それほど彼らは知恵に優れ、驚くべき知識を所有していた(p.58)

ダナの一族は世界の北の島々に住み、知識と魔法とドルイドの秘教と妖術ち知恵とを習得していた(p.61)

追いやられた彼らを地下世界を支配する超自然的な存在として祭り上げ、ケルト人の宗教に彼らダナ達の名を付与し組み込んでしまう。そのため地下世界「他界」はケルト人にとって身近で関わり合いの深い場所となり、死生観も多くの影響を受けた。

そこから多くの神話や物語が生まれ、それらはキリスト教以前の原罪の無い世界のものと言えた。キリスト教が入ってくると、物語は骨組みをそのままに登場する敵や異形や場所をキリスト教的な悪魔や地獄に変えることによって文献として残され、キリスト教的な部分は一目でわかるためケルトの貴重な資料となっている。 

「メルドゥーンの航海」はケルトの物語にキリスト教的改鋳が入っている物語で、その後「聖ブランタンの航海」としてキリスト教の物語として編纂されたが、それにもケルトの文化が見て取れる。

中世騎士物語とケルト的「他界」

アーサー王伝説の世界は、ケルト的な神話や物語の焼き直しに過ぎず、全ての登場人物や場所の裏にはケルト世界の人物や「他界」が隠れている。

アーサー王が現世に帰ってくるというメシア的信仰があるのも、アヴァロンというケルト的「他界」に運ばれたためだと考えられる。

クレチアンの四つのアーサー王もののうち三つと大筋が対応するウェールズの古譚があり、時代的にウェールズの古譚のまとめが世に出たのはクレチアンの時代よりだいぶ後であったことからも中世騎士物語はケルト世界からの影響を多大に受けた「他界」への物語ということがわかる。

これらの物語は、ユングの深層心理学にて読み解くことが可能で、アニムスとアニマの高次元での結合のための試練と恋愛成就物語と読める。

ケルト人が多くの物語を生んだ理由

ケルト人は元来が遊牧の民のため、地平線の彼方に思いを馳せ西の果てアイルランドにまで到達した。そのことが、彼らに冒険と旅の物語を作られたのだと著者は考える。

現代の旅を失った社会を嘆き、物質的豊かさと精神的貧しさを対比させている。

感想

昔は少しは勉強続けようと思ってたんですよね。受験が終わっても世界史とか英語とか数学とか物理とか続けて何者かになる準備をと思ってました。

けど大学入ったら、大学を遊びつくすことに集中して、サークルにたくさん入って、飲み会して、先輩後輩と遊んで、部室でずっとスマブラして、腹減ったら部室で鍋してっていうなんとも流されやすい自分を振り返れた一冊でした。

ほんとは全く関係ないところでの思い出ですね。けどそういうのも含めて本って思い出せて良かったりしますね。

内容としては、全く知らない分野でfate/stey nightくらいでしかアーサー王なんて知らなかったので、ケルト世界の概要が掴めて今後の読書とか関連した何かを見るときに役立ちそうです。

こういった本読むと、昔って二次創作ばっかりなんだなってわかりますよね。元の原型とどめてない人物がいたり、名前と読みやすさを時代に合わせたり、思想を伝えるために改鋳してみたりとなんでもありの状態で、人間は二次創作だらけの世界で生きてきたといっても過言じゃないと思います。

一次創作は二次創作三次創作に耐えられるほどの筋が通っていたり知名度を持つことだけが役目で、それ以降は二次創作に道を譲るのが歴史的に見てもいいやり方なんじゃないかなと現代のパクったパクられたを見てると思ってしまいますね。

神話に興味ある人はもっと詳しいと思うので、入門編として軽く触りたい人向けって感じの本でしたね。良かったです。