トラッキィギャンビィ

投機した時間の軌跡

【読書メモ】華氏451度

目次

作品詳細

作品名:華氏451
作者:レイ・ブラッドベリ
訳:伊藤典夫
出版社:早川書房
発売日:2014年4月24日
原作発売年:1953年

あらすじ

本が禁止された世界で、本を焼き払う職業、昇火士(ファイアマン)として働く主人公モンターグ。そこは全ての人が、何も知らないことで、全てを与えられることで幸せを享受する世界だった。
ある日、モンターグは自分の興味を探求する少女クラリスに出会う。彼女は物事がなぜ起こるかについて興味があった。その彼女に触発され、モンターグは昇火現場から本を持ち去ってしまう。
それが上司にバレるも、上司が昇火士が陥る一種の職業病だと、解決策を示してくれる。しかし、モンターグはこの全てを与えてくれる世界が何か足りないと感じてしまい、別の手段を考えることに。
そして、昔出会った英文学の教授を思い出し連絡し会うことに。
そこで教授とともに、本を守るために立ち上がることになる。その後、自分の家を自分で焼くハメになったり、指名手配を受けるも、安全地帯まで逃げることに成功する。
逃走先で出会い匿ってくれる人たちは、みな大学の教授だったりの経歴の持ち主で、気後れしてしまう。
教授たちからは、本を一字一句違わず記憶し継承することが、自分たちの役目で、自分たちは救世主でもなければ何者でもないことを教わる。
それを全うしようとした矢先に、今まで住んでいた都市部が爆撃機から落とされた爆弾で焼き払われてしまう。
そして、自分たちの知識が必要になる予感から焼き払われた都市部を目指す。その知識が役に立つことを信じて

感想

1984年」「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」「ダイアモンド・エイジ」に続いて、ディストピア作品を読みました。

ディストピア作品は2017年に売り上げを伸ばしているみたいで、読んでみれば、現在の体制に似通った部分も多く、読んでみるとわかる部分があっていいのではないかと思います。
逆に、似ていない部分も多くあります。この作品であれば、国によって規制されることはほぼないだろうということや、全ての人間がそこまで快楽に流れていないところなど、相違点はあります。

しかし、この先どうなるかは分かりません、法律や国が本書のようなことにならずとも、下記のようなことに近づいているように感じます。

学校がスポーツ選手、資本家、農家、製造業、サービス業、修理屋を世に送りだすことに熱心で、審査する人間や、批評する人間、発想豊かな創作者、賢者の育成をおこたるうち、”知識人”ということばは当然のようにののしり語となった。......憲法とは違って、人間は自由平等に生まれついてるわけじゃないが、結局みんな平等にさせられるんだ。誰もがほかの人をかたどって造られるから、誰もかれも幸せなんだ。......だからこそさ!となりの家に本が一冊あれば、それは弾をこめた鉄砲があるのとおなじことなんだ。そんなものは焼き払え。......われわれの劣等意識が凝集するその核心部を守る人間、心の平安の保証人......それがお前だ、モンターグ、それがおれなんだ

簡単な文章・言葉・表現が、好まれる世の中になっているのは間違い無いと思います。
実際、僕もこの本の冒頭部分の表現が分かりにくくて、最初の30ページほどは苦痛で読みたくなくなりました。しかし、そこからは引き込まれるようで、一瞬で読み終わってしまいました。

他にも、本とはなんなのかという問いに答えているこの部分もとてもよかったです。

本とおなじだけの膨大な事柄、意識の覚醒がラジオかテレビから生きいきを伝えられてしかるべきだったんだが、そうはなっていない。そうとも、きみがさがしておるのは本などでは無い!さがしものは手にはいるところから手にいれれば良いのだ。古いレコード、古い映画、古い友人。自然のなかに求めても良い。みずからのなかに求めてもよい。書物は、われわれが忘れるのではないかと危惧する大量のものを蓄えておく容器のひとつのかたちにすぎん。

この後に、

「本はぼくらを助けてくれるんでしょうか?」「必要なものの三つめが手にはいりさえすれば。ひとつめは、最前いったとおり、情報の本質だ。二つめは、それを消化するための時間。そして三つめは、最初の二つの相互作用から学んだことにもとづいて行動を起こすための正当な理由だ。」

と続き、本のために立ち上がる決意をモンターグはする。
この部分が、読書好きにはたまらない部分じゃないかなとぼくは思います。正直、本を読むことそれ自体を理解しない人からの冷めた薄ら笑いを含んだ言葉を投げかけられがちな読書家たちが、思っていることの代弁だと感じました。

本が禁止された世界で、本を焼く職業の個人が本を守るという狂気を発生させるに足る、本の魅力を最大限伝えている言葉で、それを通して読者に本の素晴らしさを伝えてくる不思議なパワフルな魅力の作品だと思いました。