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投機した時間の軌跡

【読書メモ】時間ループ物語論

目次

作品詳細

作品名:時間ループ物語論
作者:浅羽通明
出版社:洋泉社
発売日:2012年11月9日

時間ループ物語論

時間ループ物語論

 

要約

時間ループモノを入口として、人生観や価値観を考察する一冊。

各物語の特徴

1920年代などからループものという小説が出るようになり、近年では「ひぐらし」「ハルヒ」「まどかマギカ」など多くの作品がある。
テレビ、映画、小説、アニメ、ゲームなど分け隔てなく多くの作品の特徴と物語ごとに取られる違いなどを考察していく。

捉え方

これらのサブカルを「ゲーム的リアリズム」などで多くの識者が解釈していることに疑問を唱える。作者としては、ただのメタファーとして使い問題や状況に使う材料にするのがいいんじゃないかと述べる。

多くの識者やいわゆるオタクは、新しい特別な自分たち世代だけのモノだと主張したがるが、それを「普遍化」という作業から冷静なデータベースを作ることで乗り越えようとする。

分類

そして、オタク界隈(2ch)での分類「リプレイ・ターン」の2分法と、より細かく分類するが多くの作品が複数にまたがってしまう分類などを紹介。

そして本書のこれまでの分類、つまり作者の分類

  • ループの苦しみ物語・・・「ターン」「倦怠の檻」「タイムマシンの罠」
  • ループによる成長物語・・・「恋はデジャ・ブ」「未来の思い出」「リセット」
  • 特定問題解決物語・・・「7回死んだ男」「ひぐらし」「Y」
  • ループ自体を楽しむ物語・・・「秋の牢獄」「うる星やつら2」「ウロボロス

上記2種類の分類よりもうまく分けられ、エンタメの特性である追体験という観点から、主人公がどう受け止めてどう行動するかで分けることで、bん類ごとにどう人が感じるかがわかるかもしれないから、この分類にした。

比較

同じエンタメとして、願望充足・カタルシスを狙った作品群と比較することで時間ループものの特性が見えてくるのではないか。

  • 不死・永遠性の苦しみを描く「シジフォスの神話」や浄土思想、ダンテの「神曲」に見られるものが、「ループの苦しみ物語」の先祖と言える
  • 無限の向上心を描く「ファウスト」や仏教の輪廻の概念が「ループによる成長物語」の先祖と言える
  • 戦士のみが死後行ける「ヴァルハラ宮」、イスラムの天女フーリー、ニーチェの「永劫回帰」などは「ループ自体を楽しむ物語」の先祖と言える

時間の不可逆性、時間による蓄積というメリットに対する、可逆にした時の未知の怖さから「ループの苦しみ物語」や先祖は生まれたのだろう。
さらに、ループが生まれまでにも時間の不可逆性を越えようとする試みは見られる。予知夢や夢オチなどによる乗り越え方だ。
時間ループものは、客観的未来体験という点で夢とは違うと言える。そして夢が多くの物語で採用されているのは、夢と物語が近しい存在だからである。

そして、全ての小説は時間ループものと捉えることもできる、最初から読めば、登場人物は再び同じことをするし、客観的事実も全て読者は知っている。

時間ループものとは

欠損または蓄積が戻るパターンと根幹の時間自体がもどる比較的近代に現れたパターンとに分けられる。
なぜそのようになっているのかは、時間を細かく数値で機械式時計的に測るようになったのが近代からだからで、それまではある現象を元に時間というものを感じていたからである。

そしてテレビというあらゆる人を時間秩序化する装置が出現することによって、1900年初頭からの時間ループものが出来始める。

近現代考察

まずオタクと浦島太郎を同じようなものとし、浦島太郎の原点から浦島の失敗を3つあげる。

  • 亀が変化した美女のプロポーズを受けてしまい、常世の国へついていくこと
  • 竜宮城から現世のことを思い出すこと
  • そこで得た玉手箱という経験をすぐに開けてしまうこと

そして、このオタク状態は普通の人にも広がり、それは学生時代という竜宮城へと向けられているとしている。
そしてそれを今まで分析してきた時間ループとして解釈する。

  • 不可逆な「直線的時間」
  • 毎日の繰り返しのような「円環的時間」
  • そして人生は2つを混ぜた「螺旋的時間」

そしてこの状態から、オタク方面で日常系の流行った理由として、直線的時間の見えなさからくるものだとします。
これらは、モラトリアム出会ったり、現代社会の多くを説明できる概念ではないか。

  • より良い進学、就職を目指し向上するための「直線的時間」
  • 級友とたわいのない会話、文化部や帰宅部、今を燃焼し尽くす文化祭は「円環的時間」

今の世界は、多くの苦しみが軽減され、多くの円環的時間に満たされる時代と言える。「直線的時間」を思い出せるるは、もはや仕事と育児だけになりつつある。そのため、老いという「直線的時間」を意味づけできるように何かを作ることがこの時代において大切なことなのではないか。

感想

時間ループを比較・分類・考察することで、その先祖となるものを見つけ出し、そこから現代の日本社会を考えていくという本書。

僕としては、気軽に図書館で手に取ったものでしたが、すごく興味深く考えさせられるような内容でした。
特に、直線的時間と円環的時間の出てくる最後のあたりの章は、現代社会をみる上で考え方・捉え方のベースになる素晴らしい論だと思いました。

また、多くの時間ループに関する小説などの情報もあり、このジャンルの本とか映画は結構好きだったので参考にして見ていきたいと思います。バタフライエフェクトは1だけでいいかなとこの本で時間を無駄にしなくてすみました。

オタク的な、軽い入りから現代社会の捉え方まで読むことができるので、オタクたちには是非読んでほしい一冊です。