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投機した時間の軌跡

【読書メモ】ビタミンF

なんだかんだで重松清さんの作品を読んでいこうと思ってます。今回はこれ

目次

作品詳細

作品名:ビタミンF
作者:重松清
出版社:新潮文庫
発売日:2003年7月1日

ビタミンF (新潮文庫)

ビタミンF (新潮文庫)

 

あらすじ

全ての作品が、家族に関するちょっとした物語でどんな人にも共感を呼べる作品です。
心に残った4作品のあらすじをまとめておきます。

パンドラ

中学生の娘が万引きをして補導された。しかも、娘の陰には不良と思われる男の影が見える。また、娘を気遣う妻の姿をみて父親は違和感を覚える。良好な家族を築けていたと考えていた父親だったが、この万引き事件をもとに、妻の経験人数が多かったことや、自分の経験人数は2人で初めての相手のことを思い出し、ifの世界を考えてしまう。

セッちゃん

父親は明るい性格で誰からも人気がある娘のことを誇りに思っていた。ある日、娘が転校生「セッちゃん」のいじめ話しを報告してくる。だんだんと不愉快に思ってきた父だが、ひょんな事からそんな子は存在しなく、自分の娘が「セッちゃん」である事を知ってしまう。娘の隠蔽を尊重するも母が耐えられず、学校側が対応してくれるが、「個人の自由」の前に今後もいじめは続く。それを親子で通じ合い偶然見つけた身代わり雛を一緒に流す。

なぎさホテルにて

37歳の誕生日に夫は家族で、20歳の誕生日で使った「なぎさホテル」に泊まりに来ていた。当時の彼女とは結婚できず、今の妻も悪くはないが、どうもifの世界のことを考えてしまい、妻と少し前からギクシャクしてしまう。
「なぎさホテル」には未来ポストというサービスが誕生日にだけ使え、未来に手紙を出せるといものだった。それを受け取り夫は、このホテルを利用するわけだが、家族には全く内緒にしていた。
ホテルのサプライズで、誕生日プレートに20歳の時の彼女の名前が書かれてしまう。夫はこれで結婚生活が終わるかもしれないと思いつつ、先に部屋に帰った妻を追うと、妻が当時の彼女からの未来ポストのメッセージを受け取ってしまう。
それは、別の相手と結婚した彼女が30歳の時に書いたものだとわかり、その手紙によって、妻は夫を許す。

かさぶたまぶた

周りからなんでもこなせてしまうように見えてしまう夫を持つ家族の話。
この家庭には優秀な小学6年の娘と少し抜けた高校3年の息子がおり、優秀なはずの娘は、最近学校の宿題も提出せずに塞ぎ込みがち、受験に落ちてしまった息子は明るく毎日遊んでいる。
子供のことならなんでも理解しようとし、その努力もして来た夫だが、強者特有の目線を合わせられないことがある。そして本人はそれがわかっていない。
娘の説得もできないでいると、息子が泥酔状態で帰ってくる。普段はおちゃらけた息子だが、父にイラつき暴れてしまう。その理由を聞くと、なんでも知ったような態度が気に入らないと、「なんでも自分がいちばんだってカッコつけて余裕こいて、まわりのことばかり気にしてよ」と言われてしまう。
そこでやっとなんでもできる自分ではわからないことがあると理解した夫は、自分の苦手なことを話だし、父としての「完璧」な像を壊し出す。
それを聞いていた娘もやっと心を開いてくれ、元の家族へと戻っていく。

感想

家族に焦点を与えられた作品で、どんな人にも響くものばかりなんじゃないかと思います。ちょうどいいくらいの誰にでもあるか、自分にももう少しで当てはまるだろうという物語のチョイスがすごいです。
短い50ページくらいにまとまっているのに、完成度がすごく高くて、もっと続きがあってもいいんじゃないかというところで終わってしまうのも、全ての物語の続きを想像させられてしまい、うまいなぁと思ってしまいます。

僕が特に好きなのは、パンドラとなぎさホテルにてで、この世界と人間の欠陥をうまく描いているなぁという印象です。
なぜか、僕らの世界の時間というものは未来の方向にしか進めず、過去には進めません。そして、人間に与えられている必要もない知性というか思考能力という欠陥機能。
その二つによって、過去には戻れないのにその過去には無限の可能性があったことを考えてしまうという、欠陥を重ねて使った結果による世界のバグのような話を、よくここまで短く心にくるように書けるなぁと感心してしまいました。

万人におすすめできる作品なんじゃないかなと思います、そしてどの世代が読んでも少し違った感想を抱くんじゃないかなとも思いました。